いい街いいパン屋

いい街いいパン屋

いい街にはいいパン屋がある。祖父の遺言だ。目をカッと見開いて僕の袖をつかみ、こういったのである。なんでも、パン屋を中心に近所の住民で緩い連帯が作られており、それがいい街の条件なんだそうだ。祖父が死んだときには何とも祖父らしいと思いながら、少しがっかりもしていた。70余年生きてきて、孫に残す言葉がそれかと。何もない日々。しかし、今となってはそれもいい思い出だ。



時折、窓の外を眺めては我が町の在りし日のパン屋を思い浮かべる。今ではもうパンがどんなものであったかさえ、記憶から薄れている。それでも、いつもの散歩道の帰り、祖父が買ってくるアンパンのことはまだ覚えていた。



てっぺんからふちまで緩いカーブを描き、表面にはきつね色の照りがついてる。白熱球の灯に照らしてみると、てらてらと光を反射し角度によって表情を変える。子供心にはそれがなんとも面白く、アンパンを傾けては眺め、いつまでも飽きなかった。



そうだ、あのアンパンはつぶあんだった。小豆の皮が餡に混ざっていて、こしあんとはまた違う食感がするのだ。味のほうも皮がある分コクがあり、そのコクの部分がまたパンとよく合うのである。こしあんの滑らかな舌触りも嫌いではないが、あののぺっとして均質な感じがいまいち好きになれなかった。一方つぶあんは度量がある。雑味とされかねない皮まで味わってやるという貪欲さというか、ある種快活さがあってそれもまた良いのである。



しかし、そんなことを考えても虚しいばかりである。いくらアンパンの味を思い浮かべようと二度と食べることはできまい。変わってしまった世界が戻ることもない。



気休めに窓の外をいくら眺めても、やはりパン屋はそこにはない。開戦当初の爆撃で跡形もなく吹き飛ばされてしまい大きなクレーターだけが残っている。



 【ヴー!ヴー!ヴー! 市民は安全な場所へ避難してください】



かろうじて残った町内放送のスピーカーから、聞きなれたサイレンの音が流れる。今更どこへ逃げろというのか? もはや崩れていないビルのほうが珍しい。



ばかばかしくて怒りを覚える。必死で生きて、この先何があるというのか? なんというか、死にたくないという消極的な思いでしか生きられない、生きている理由がないのである。

村守

犬がいる。卒塔婆の方をのんびりと歩いている。痩せて所々禿げかけた汚らしい白い犬。時々立ち止まっては後脚で頭を掻く。犬には卒塔婆の意味もわからないだろう、僕にとっては弔いの証でも彼にとってはなんの意味も持たないのだろう。じっと見ている僕の視線に気づいたのか犬は振り返って不満げな顔をした。そののち、とぼとぼと去っていった。



また、卒塔婆を見回す。なんら変わったこともなく、いつものように野鳩が鳴いている。ブッポウソウ ブッポウソウ。ここ最近は盆にさえ弔い客が来なくなった。人の姿を見てさえいない。以前であればここからでも村の往来が見えたものだが、一人減り二人減り歳をとっていなくなるばかりでとうとう村には一人だけ。一際頑固で無愛想のノツオ爺だけになった。しかし、そのノツオ爺の姿も随分見ていない。



もし僕に足があれば村まで歩いていって、南端のボロ東屋から北っ端のノツオ爺の家まで人がいないか確認していけるのに、この体じゃ確かめる術もない。村の方を眺めてはじっと待つしかない。



この村が生まれた時に僕も生まれた。別に誰かが腹を痛めたわけじゃない、新しく村が建てばそこに村守が産まれる。ただそれだけの話だ。誰に教わった訳でもないが、生まれた時から自分がなんのためにここにいるのか、それだけははっきりしていた。村とともに生まれ村とともに死す、それが僕のお勤めだ。



しかし妙だ。ノツオ爺が死んだならいよいよ村も終わりじゃないのか? と、なればこの村の村守であるこの僕もお勤めを終えて死ぬことになるはずだが、どういう訳か未だに生きている。しかしそうなると、いよいよ自分というものがわからなくなる。退屈で特に意味があるのかわからないお勤めだったが、村を終わりまで見守るという目的はあった。しかし、これではまるっきり何のために生きているのかわからないではないか。



産んだ相手に恨み言を言おうにも、誰に言うかもわからない。いつ死に終わるかも分からない。何のために生きてきたのかも分からない。これではまるで人間ではないか。



しかし、僕は人間ではない。腹もすかさず気も狂わずに、ただじっと村を見つめるほかない。いつ終わるかも分からずに。

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